相続時には、遺産トラブルともいわれるように、相続人同士でトラブルが起こりやすいといわれています。例えば、相続人が2人以上いる場合、相続されるべき遺産を巡って、誰が何をどれくらい相続するかどうかで問題になりやすいのです。これまで仲が良かった家族でも、遺産を巡ってけんかになった末、仲が悪くなり、絶縁状態になるケースも少なくありません。
そこで、トラブル回避に一役買うのが遺言書です。生前に遺言書を残しておくことで、遺産の所在や相続人を明確にし、あなたが希望する遺産の相続方法を伝えることができます。
ただし、一言に遺言書といっても、書き方には細かな決まりがあります。たとえ、遺言書を作成したとしても、法律上定める条件を満たしていない場合、遺言書としての効力を持たなくなります。
では、遺言書はどのように書けばいいのでしょうか。わかりやすい遺言書の書き方を押さえておきましょう。
遺言書の種類には3種類ある
民法上認められている遺言書には大きく分けて3つの種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
この中で、秘密証書遺言は、遺言内容を絶対に誰にも知られたくない場合、かつ確実に遺言の内容を実行したい場合に用いられますが、現状では、ほとんど作られていません。
そこで、本記事では、「自筆証書遺言」および「公正証書遺言」の書き方についてご説明していきます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、被相続人自身が作成する遺言書のことで、自分で作る、いわば自作タイプの遺言書と呼ばれています。
自筆証書遺言のメリット、デメリット
自筆証書遺言は、紙と筆記用具、印鑑さえあれば、誰でも簡単に作れるメリットがあります。
一方で、自筆で作成するため、本当に被相続人がしたためたものなのか筆跡鑑定でもめてしまう、保管場所を他人に伝えていない場合、見つからないことがある、内容を書き換えられてしまう、利害関係人に処分される可能性がある、家庭裁判所で兼任の必要があるといったデメリットもあります。
自筆証書遺言作成に必要なもの
自筆証書遺言作成には、次の3つが必要となります。
■遺言書とするための用紙
遺言を書き記す用紙は、紙として文字を記せるものである必要があります。
法律上、ビデオや録音は遺言としての証拠能力(証拠として用いられるかどうかの有効性)がありません。一般にはA4サイズの便せん、まっさらな用紙を使います。
過去の前例としては広告チラシの裏やレシートの裏の余白部分も自筆証書遺言として認められたケースがありますが、やはり遺言として用いるのであれば、真新しい用紙を使いましょう。
■筆記用具
筆記用具は、原則として、消える可能性のないもの、ボールペンやサインペン、万年筆、筆などを用います。法律上、用いる筆記用具に制限はありませんが、消しゴムで消えてしまう可能性があるため、鉛筆は控えておきましょう。
■本人の印鑑
自筆証書遺言の場合、用いる印鑑は実印でなくても構いません。認印や三文印でも、認められます。過去には拇印も有効と判断されたケースがありますが、後の検印を考えると、拇印よりも物理的な印鑑を用いましょう。
自筆証書遺言の書き方
■被相続人自らが書く
自筆証書遺言は、その名の通り、被相続人自らが記さなければなりません。代理人に依頼して代筆することも認められておらず、代わりに書いてもらう場合は、公正証書遺言を作成する必要があります。
また、パソコンなどに入力して紙に印刷したものに署名する形式も認められていないので注意しましょう。
■遺言内容を記載する
被相続人が希望する財産の相続先や相続額を記載します。この際、相続人たちが優位している遺留分(法定相続分の約半分)を害する内容は、法律上無効となります。
■日付を記載する
自筆証書遺言を複数作成した場合、相続財産に対する意思決定の変更があったとして、日付が新しいほうが優先して効力を発揮します。
そのため、必ず日付を記載しなければなりません。その際、西暦や元号での表記を行いますが、「2019年5月吉日」や「2019年5月 日」というように、日付が具体的にわからない場合、その記載は無効とされています。
実際に遺言書を作成した日付を明確に記載しましょう。
■署名する
遺言書には名前を自書します。署名は、誰が書いたものかを判断するためのものなので、本名以外にペンネーム、芸名といった呼び名でも構いません。ただし、後のトラブルを防いで正確な遺言書を書くのであれば、本名を自書するようにしましょう。
■封は不要
遺言というと、封筒に入れられて封印をされているイメージがありませんか。
ですが、自筆証書遺言は、必ずしも封筒に入れる必要はありません。もちろん、他人による書き換えを防ぐ意味で封筒に入れることは可能です。
ただし、封筒に入れ封をした場合、被相続人の死後、内容を確認するためには、家庭裁判所による検認をしなければならず、時間と手間がかかってしまうので注意しましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人に立ち会ってもらい作成する遺言書で、いわば、公文書タイプの遺言書と呼ばれています。
公正証書遺言のメリット、デメリット
公正証書遺言は、公証人が作るため、公文書として取り扱われます。そのため、信用力が高く、改ざんされる心配がないというメリットがあります。
一方で、公証人に依頼するため、時間と手間、費用が掛かってしまうことがデメリットといえます。
公正証書遺言作成の流れ
Step1. 公証役場へ出向く
公正証書遺言は、公証役場で作成します。そのため、まずは、公証人とのアポイントを取らないといけません。公証役場は全国にあるので、電話で遺言の作成を依頼したい旨を問い合わせましょう。
全国の公証役場は、日本公証人連合会の「公証役場一覧」で検索できます。
Step2. 遺言書案を作成する
あらかじめ、ご自身で遺言書案を考えている場合は、公証役場に提出して伝えます。 また、どのような内容にするか明確でない場合は、公証人と話しながら内容を相談の上、作成します。
Step3. 最終的な文面を確認する
Step2で公証人が作成した遺言書案の内容を確認して、最終的な文面を作り上げます。 遺産の相続人、相続財産の範囲、金額などを細かに書き込んでおきましょう。このとき、公正証書遺言の作成手数料が決定します。
Step4. 作成日時を決定する
公正証書遺言を作成する日取りを決めます。公証役場での作成、もしくは自宅などに公証人に出向いてもらっての作成も可能です。公証人に来てもらう場合は、出張費用がかかるので注意しましょう。
Step5. 作成日当日
作成日当日に向けて、遺言書を作る方の実印、印鑑証明書、免許証などの本人確認書類、相続人との続柄が分かる戸籍謄本、そのほか、相続財産にかかる資料を準備しておきます。これらを持参のうえで、公証役場や、公証人と約束をした場所に赴きます。
作成にあたっては、証人2人の立会いの下、公証人が遺言書の内容を読み上げて相違がないか確認します。作成者本人が内容に相違なしと判断すれば、証人とともに遺言書に署名捺印をします。
Step6. 作成手数料を支払う
作成手数料は現金払いです。金額が分かった時点で、事前に準備しておきましょう。また、公証人に出張を依頼する場合は、出張料金も同時に支払います。
Step7. 遺言書を受け取る
遺言書の正本と謄本を請求した通数受け取ります。なくさないように保管しておきましょう。
おわりに
代表的な自筆証書遺言と、公正証書遺言の書き方をご説明しましたが、おわかりいただけましたでしょうか。遺言書の作成というと、難しそうなイメージを持ってしまいますが、意外と簡単に作れます。
形式にこだわらず、自分の意思を残しておきたいのであれば「自筆証書遺言」を、正式な公文書として残しておきたいのであれば「公正証書遺言」を作成しましょう。
公正証書遺言を作る場合は公証人に内容を相談しながら作成しますので、あらかじめどのような文言にしたいのかメモ書きにして持参しましょう。あなたの遺産を守るため、相続人間のトラブルを避けるためにも、有効な遺言書を作成してくださいね。
執筆:花山さくら(行政書士)
イラスト:いちばんやさしい終活ガイド
執筆・監修者
花山さくら
行政書士
大阪出身。大学時代より法学を専攻。行政書士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー等の専門資格を取得後、法律事務所に勤務。お客様に寄り添う親身な姿勢で、広くライフスタイルについての相談をおこなっている。